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「WTI原油は需給構造の変化で下落の可能性も」
UBS Warburg証券会社株式調査部シニアアナリスト、ディレクター 伊藤敏憲氏
2008年2月22日更新
WTI原油は2008年に入って早々に史上初のバレル当り100ドル台をつけた。ただしこの相場上昇の最も大きな要因はドル安にあり、実際の原油価格は見掛けほど上昇していない。この原油価格を円ベースの東京原油で見ると、昨年11月に6万円を突破、その後いったん反落して昨年12月から年初にかけて再び6万円台に入ってきたものの、それほど上昇していないことが分かる。
2008年の原油相場の見通しは、結論を先にすると年半ばから下落すると見ている。予想される値位置としては50ドル付近まで下がっておかしくない。年半ばの5月から6月にかけて下げ始め、夏場の8月には前述のとおり50ドル前後まで水準が大きく訂正される可能性がある。実際、昨年から今年にかけてWTI原油はそれほど上昇していない。水準が90〜100ドルに達したことから、上げ渋る局面である。しかも高値が続いているため、これから需給構造に変化が出てくるものと考えられ、予想外に相場が大きく下落する下値リスクが強まっているとみている。
また石油価格の高騰とともに上昇傾向を強めていた石油株が軒並み安となっていることも先行きの石油価格の下落を連想させる。参考までに石油株であるが、代表的な新日本石油の株価は2007年8月の高値から半値近くまで急落しているし、昭和シェル、コスモ石油も同様に昨年8月の高値から半値近くまで大きく下げている。更に、海外株式市場でもスーパーメジャーであるエクソンモービル、BP、ロイヤルダッチシェルの株価も下落している。一連の石油株の全面安は、石油価格が高過ぎていずれ修正安になることを示唆していると判断できる。
逆に、一連の石油株を基準にしてWTI原油の平準価格を算定すると60ドルという値が導き出される。つまり、年初につけた100ドルは、およそ40ドルもバブルになっていると見られる。
それとこの割高な問題と平行して、もう一つ、現状の国際原油市場で問題なのは、国際指標がこのWTI原油であるという点だ。石油には大きく二つの種類があり、軽油をライト、重油をヘビーと呼ぶ。更にこのライトを種別すると低硫黄がスウィート、高硫黄はサワーである。そしてWTI=インターミディエート(West Texas Intermediate)は、この低硫黄(硫黄分は0.22%・API度=原油及び石油製品の比重を示す単位は44.0)のライトスウィート種であり、米国のウエスト・テキサスという地域の油種である。つまり極めてローカルな油種であるばかりでなく、現物産出量は日量40万バレル程度。これは世界全体の算出量約8500万バレルからすると、わずか0.5%のシェアしかない。このようなマイナーな油種が国際的な指標になっているのは大きな問題であるといえよう。
参考までに、日本の原油輸入はそのほとんどがサウジアラビアなどの中東産で、原油価格の指標も当然中東産となるわけだが、この価格の指標はシンガポール原油価格でそのシンガポール原油価格の指標となっているのがWTI原油。結局のところ、日本の中東産原油の価格決定権を握っているのがWTI原油である。このあたりから推し量っても実力以上の価格が形成されやすい構造性があるといえる。
原油の生産コスト面からも見ても、中東の原油生産コストはバレル当り数ドルといわれているし、北海油田でも20〜30ドルである。最近脚光を浴びているカナダ産オイルサンドで40ドル前後、コスト的に高めである南米ブラジル海洋油田で40ドル強である。このような中、100ドルという原油価格はあまりにも上げ過ぎである。
ここまで価格整合性やコスト面からすると行き過ぎ感があると説明したが、需給面でも先安感が拭い切れない。特に需要面は価格高騰による消費離れが進むことが予想されるため、需給は緩和するとみられる。実際にはこれから少しずつ原油高騰を背景に省エネが加速するものと考えられる。また地球温暖化で平均気温が右肩上がりとなっているため、暖房油の消費が少しずつ減退してくると考えられる。更に、米国ではエネルギー高に対応するため自動車の燃費規制を導入した上、欧州ではより厳しく環境を重視した政策を行っている。
非OPECの原油生産能力が増強されていることも需給を緩和させることになりそうだ。別な角度では、サブプライムローン問題の発生で世界景気が鈍くなり、そのことによって石油などエネルギー全体の消費が減少することも避けられないだろう。
加えて、サウジアラビア、カタール、UAEなどでは大規模な石油開発プロジェクトの稼動が控えているし、アジアでも同様に大規模な製油所の新設と増設計画が目白押しとなっている点は看過できない。ここで重要なことは、これらの新規プロジェクトのコストだが、最もコスト高のプロジェクトでも40ドル程度であることからすると、原油価格がバレル40ドル以上であった場合、一連の増産傾向に歯止めをかけることができないということである。この結果、現在の原油価格のトレーディング・レンジが大きく変わってくる可能性がある。当面は現在のレンジである80〜100ドルが維持されても、今後大きく上値が修正されるものと考えられる。
現在、原油価格を押し上げている原動力の一つである中国のエネルギー消費増に関しては、確かに今年2008年が北京オリンピック開催ということで、ビル建設やインフラの整備など工業需要が急増、それによって産業素材が大きく上昇したことは確かだ。しかし中国の持続的な成長もオリンピックを迎えるにあたりそろそろ頭打ちになってくるものとみられ、これまでのように消費拡大傾向が続くかどうかは不透明である。
伊藤敏憲(いとう としのり)
UBS Warburg証券会社株式調査部シニアアナリスト・ディレクター。1984年に東京理科大学理工学部工業化学科卒業。同年大和證券株式会社入社。同年6月に(株)大和証券経済研究所(大和総研)に出向。1999年4月 HSBC証券東京支店にシニアアナリストとして入社。2000年4月 UBS Warburg証券会社に入社し現職。産業並びに企業の調査研究業務に従事し、これまで石油、電力、ガス、鉄鋼、商業、サービスなどの産業の調査を担当。現在は、石油・鉱業業界の調査と企業業績全般のとりまとめを担当している。また日本証券アナリスト協会の検定会員で、ディスクロージャー研究会などの委員に就任中。通商産業省 石油審議会 備蓄問題検討作業部会、アジア石油問題研究会などの委員も歴任。著書に、「厳しさ増すエネルギー事情と関連産業」(大和総研)など。


