最新レポート
「金需給のマクロ的な現状について」
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表 亀井幸一郎氏
2007年7月13日更新
今年に入りドル建てのNY金がなかなか700ドルを突破することができないのは、金価格の高騰で金の需要が落ち込んでいることがその理由の一つだと指摘する声があるのは事実である。実際、最近の傾向として、貴金属全般に宝飾需要は頭打ちの傾向にある。特に高騰したプラチナに対する宝飾需要が伸び悩み、プラチナを購入するのではなく、プラチナに似ているが、価格が安く抑えてあるホワイトゴールド(金とニッケル、パラジウムなどの合金)の購買量が増える傾向にある。
初めに世界最大の金需要国インドの動向だが、05年から06年にかけて金価格が上昇した際に需要は落ちた。実際、05年の9-12月から翌06年の1-3月にかけた時期は顕著に需要が落ちたし、更に金相場が700ドルを突破した06年の4-6月も大きく需要が減退した。価格の急騰により、このようにインドの需要は一時落ち込んだものの、昨年後半から今年上半期にかけて金の価格が安定推移してきたことにより、インドの金需要は回復しつつある。
実は、いったん700ドルを突破した後に金価格は下落に転じたとはいえ、その後の価格推移は高値圏を維持、平均600ドル以上を維持しているわけで、この価格帯というのは、実質的に史上最高値である。普通に考えれば、史上最高値であることから金需要は減退するはずだが、今年4-6月のインドの金需要は昨年同時期と比較して逆に増えている。従って、インドの金需要は、価格の乱高下を嫌うが、安定的に推移した場合は堅調に伸びる傾向がある。インドは昨年のGDPが9.1%と極めて高く、証券分野でも株価の値上がりや出来高の伸びでも高い国であるため、それが所得の増加につながり金需給を支えている。また通貨=ルピーも強含みに推移しているため、一連の強い経済力がバックボーンにあることで、インドの金需要が深刻な落ち込みにつながっていないといえよう。
一方、中東でもインドと同じようなことがいえる。昨年は金価格の高騰で一時インド以上に需要の落ち込みがあったが、ここにきて復調してきている。サウジアラビアをはじめ、ドバイ、エジプト、トルコなど湾岸諸国は今年に入ってから4-6月で前年同期比プラス20%(速報)と高い伸びになっている。この原因の一つとして原油価格が再び70ドルを突破、そのことによって収入が増え余剰資金を投資用としての金買いに振り分けていると見られる。
中国の金需要動向は、金の価格上昇の影響を受けず、安定的に拡大している。プラチナなど貴金属全体の価格が高騰しているにもかかわらず、金の宝飾需要は緩やかに拡大している。昨年の金需要は前年比10トン増の240トンになるなど、対前年比で年毎5〜10トン程度の持続的な成長になっている。更に注目すべき点は中国では、いよいよこれから本格的な金の投資需要が始まりそうな気配が漂っていることである。
今月、つまり2007年7月末から中国興行銀行で個人投資家を対象に100グラム単位の金取引が始まる予定である。これは上海金取引所で取引されている金価格をベースに取引されるものである。これまでも金現物取引はあることはあった。2005年7月から中国工商銀行では1キログラムの地金取引は始まっていたし、またバンコク・チャイナでは100グラムのペーパー取引を行っていたが、どちらも取引単位が大きかったり、金地金に変えることができなかったことから人気化しなかった経緯がある。しかし今回は、先の中国興行銀行が上海金取引所と提携、取引単位を小口化すると同時に金地金を受け取ることができる仕組みにして取引を始めようとしていることで、これが中国の金需要増の起爆剤になってくる可能性がある。
今のところはこの一行だけであるが、今後は取扱銀行が増えると見られることから、それによって金の投資用需要は拡大するものと見られる。これは、中国全体が高景気でカネ余り現象が起きていることから、金への地金投資を進めることでカネ余りの連鎖を止めようとする中国人民銀行の政策ではないかと見られ、その流れはこれから本格化してゆくものと見ている。
最後に日本の金需要だが、最近の傾向として、これまでのような証券を中心とした金融投資だけではなく、金地金の投資をポートフォリオ(分散投資)に組み入れる傾向が強まっているようだ。その背景には、金価格の大幅上昇に伴い、金投資による高い投資パフォーマンスがある。足元は、個人投資家が金価格が高値をつけていることから売り戻し(利食い)の動きになっているが、この動きが一巡すれば、新規の金投資需要が入ってくると見ている。
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)
中央大学法学部卒業。山一證券に勤務後、87年マネー・マネジメント・インスティチュート(MMI)入社。92年ワールド ゴールド カウンシル(略称WGC/本部ロンドン)入社。企画調査部長として経済調査、マーケット分析に従事。98年同社退社、執筆、講演などの活動を開始。現在日経CNBCテレビにて日経CNBCエキスプレス「グローバル・ウォッチ」にレギュラー出演中。また住友金属鉱山サイトでのメールマガジン、日経マネーにて金市場「マーケット詳解」を連載中。


