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「ハリケーン接近によるプレミアムは5ドル〜10ドル前後を想定」

第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 嶌峰義清氏

2007年6月29日更新

現在の原油相場を見るうえでまず押さえておくべきことは、最大の消費国である米国では原油の在庫自体は豊富な状態にあるものの、ガソリンを中心とした製品の在庫が慢性的に不足気味に推移している点にある。原油在庫は、直近で25日分と適正水準をやや上回っているものの、ガソリンの在庫は20日分と適正水準を大幅に下回っている。

その背景には、株主資本主義が徹底されているために米国の石油企業が短期利益を追求する観点から、設備投資をしようにも環境規制が厳しいことに伴い、利益が見込めない下流の精製・販売部門の投資を積極的に行おうとしないからだ。過去30年間で製油所が1ヵ所も建設されていないのはよく知られた話だが、既存の精製設備も老朽化が進んでいるため、直近では稼働率が87〜88%と15年ぶりの水準に落ち込んでいる。このような構造的な問題が横たわっているため、今後も製品価格に牽引されて原油価格も高水準で推移する可能性が高そうだ。

最近の傾向として注目されるのは、北海ブレント相場が70ドル台での推移を続けており、より品質が高いはずのWTI相場を上回っていることだ。その背景には、WTI原油を半分以上精製しているマッキー製油所が火災事故を起こしてしまい、稼働がストップしていたことから、原料の原油が積み上がったことがある。今は稼働が再開されているとはいえ、フル稼働には程遠い状態だ。またそれ以外にも、カナダのオイル・サンドからかなり潤沢に流入し、WTI原油と同じ場所(クーシング)に集積されることから、一緒に在庫が積み上がっているといった事情もある。それに加え、ナイジェリアでの政情不安からブレント相場が押し上げられている面もあるだろう。

今後の注目要因として、ハリケーンと地政学的リスクを挙げておきたい。米国では05年8月末の「カトリーナ」が大きな被害をもたらしたのが記憶に新しいが、メキシコ湾岸に製油所やパイプラインが集中しているため、カリブ海でハリケーンが発生すると強材料視されやすい。近年、地球の温暖化からカリブ海で発生するハリケーンが増えており、しかも今年はラニーニャ現象の影響で通常より多く発生するといった気象予報も出ているだけに、気になるところだ。ハリケーンが接近すると原油相場は5ドル程度のプレミアムが上乗せされ、場合によってはそれが10ドル程度に拡大してもおかしくないだけに、8月後半以降は要注意だ。

地政学的リスクについては、やはり最大の注目要因は核開発問題やイラクのシーア派支援問題で米欧と対立しているイランをめぐる動きである。米国の外交政策がカギを握るのはいうまでもないが、来年に大統領選を控えているだけに、それほど積極的に動けないのが気になるところだ。ただし、抜本的に対立状態が緩和することはあり得ず、最終的には米国や、あるいはその意向を受けたイスラエルが、核関連施設があると見込まれる地域に空爆を実施する可能性を視野に入れておくべきだろう。

また、石油関連施設を狙ったテロ攻撃も頻繁に起きているが、今後もこうした傾向が続く可能性が高いとは思われるものの市場は材料としては新鮮味がなく、よほど大きなテロ攻撃でなければ強く材料視されにくくなっている。またナイジェリアでの政情不安は今後も収束することなく根強く続くことで、ブレントを中心に原油相場の下支え要因になりそうだ。中南米ではベネズエラをはじめ資源ナショナリズムが台頭しており、自国産の石油や天然ガスを国有化する動きが強まっていることから、新たなリスク要因として意識する必要があろう。


嶌峰 義清(しまみね よしきよ)

青山学院経済学部卒。1990年岡三証券入社。岡三経済研究所、日本総合研究所、日本経済研究センター等を経て、98年5月より現職。現在は金融市場全般担当のチーフ・エコノミスト。現在、角川SSコミュニケーションズ月刊誌「MONEY JAPAN」にてグローバルマーケットの連載をはじめ、さまざまな経済誌に執筆。