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「日本の自動車タイヤ業界の現況と今後」

メリルリンチ日本証券(株)調査部シニアアナリスト・シニアディレクター 栗生博氏

2007年3月16日更新

日本のタイヤメーカーに関して、投下した総資産に対し本業および投資活動から得られたリターン(ROA:投下資産事業利益率、事業利益は営業利益と受取利息配当金の合計)の過去10年間の推移をみると、ブリヂストン、住友ゴム工業の2社と横浜ゴム、東洋ゴム工業の2社とで格差が開いたことが分かる。

ここで、ROAを総資産回転率と売上高事業利益率に要因分解してみると、02年度以降のROAの格差拡大は売上高事業利益率の格差拡大に起因するところが大きいことが分かる。さらに売上高事業利益率を減価償却費比率と償却前利益率に分解してみると、償却前利益率の格差がROAの格差拡大につながっており、過去3年間の4社の減価償却費比率は収斂する傾向にある。ブリヂストンが高い償却前利益率を維持している一方で、住友ゴム工業の改善は、不採算だった北米タイヤ事業の分離譲渡、ゴルフ用品など非タイヤ事業の改善に起因するところが大きい。横浜ゴムや東洋タイヤ工業も非タイヤ事業を中心にリストラを進めたが、改善するまでには至らなかった。いわゆるITバブル崩壊後の景気低迷の影響が大きかったこともあるが、積極拡大というよりは「選択と集中」などによる収益性改善が業界の関心事項だったといえよう。

国内タイヤ市場は既に成熟化している。資本集約的な事業構造を有するタイヤ業界にとって、数量増は利益成長の必要条件であり、必然的に海外需要取り込みのために海外生産拠点拡大の動きが加速化している。特に自動車需要が急速に拡大している中国や、アジアのデトロイトとして自動車産業の集積化が進むタイなどでのタイヤ生産拠点新設、能力拡張が相次いでおり、新工法の活用を含め各社の「生産」面に注目が集まっている。新工法に関して、ブリヂストンは世界で初めて部材生産から検査工程までの一貫した自動化を実現した「BIRD」生産システムを開発、導入している。

住友ゴム工業も「太陽」をタイで、東洋ゴム工業も「A.T.O.M.」を米国にそれぞれ導入。東洋ゴム工業においては、新生産システムの採用によって念願だった単独での米国進出を実現した。横浜ゴムも中国で小規模生産方式を取り入れた新工場を新設する。各社とも、特に初期投資負担の抑制を念頭に置いた投資効率の極大化、短期間での生産拠点立ち上げの実現、需要変動への機動的な対応などを図るべく、海外拠点での新工法導入に積極的である。原油、天然ゴムをはじめ原材料価格の高騰、韓国のHankookやKumho、中国メーカーなどの低価格攻勢を背景に、タイヤメーカーのローコストオペレーションは必須事項であり、新生産システムの採用が今後のROA改善、向上のキーファクターの一つであることは間違いない。

「生産」とともに、タイヤメーカーの競争力の根幹をなすのが「商品」と「販売」である。特に高付加価値化の鍵を握る「商品」においては、パンクで空気圧が失われても走行できるランフラットタイヤのデファクトスタンダードを巡る動きが、業界再編のトリガーとしても注目される。ミシュラン、グッドイヤー、ピレリ、住友ゴム工業、東洋ゴム工業が協力関係を結び、これに対抗する格好でコンチネンタル、ブリヂストン、横浜ゴムが協力体制を構築している。

ただ、世界的な販売競争の激化、原材料高によるコスト増が進捗する中では、商品のブランドイメージの確立と強化、グローバルでの生産体制維持の担保として、販売体制の強化と整備がより重要となろう。需要拡大のキーとなるのはBRICsであり、商慣習が異なる当該地域での与信管理体制の整備も必要不可欠である。「生産」「商品」「販売」はタイヤメーカーにとって、それぞれがそれぞれを担保し合う必要不可欠な経営資源であるが、「販売」における施策の巧拙が今後のROAの帰趨に大きな影響を及ぼすようになるであろう。

ブリヂストンは北米のバス・トラック用タイヤ拡販を志向し、リトレッドタイヤメーカーであるバンダグを買収。品質、生産性だけでは超えられなかった壁をディストリビューターの買収で乗り越えようとしている。住友ゴム工業も、タイなどでの能力拡張分を住友商事が買収した米TBCコーポレーションとのビジネスに投入する。80年代以降に進んだ技術提携と合弁生産契約は、合併や買収を含むグローバルでの再編にはまだ至っていない。ROAの極大化を意図する再編のトリガーとなるのは、むしろこれからの「販売」の動きかもしれない。


栗生 博氏
栗生 博(くりゅう ひろし)

1989年慶応義塾法学部法律学科卒業。同年住友銀行(現三井住友銀行)入社。1994年8月以降日本インベスターズサービス( 現 R&I)、大和住銀投信投資顧問への出向により債券格付アナリスト、バイサイドアナリストとして自動車、機械セクターなどの担当に携わった後、2000 年12 月同行退社。2001年1月より2005年9月までゴールドマン・サックス証券会社にて自動車部品、タイヤセクターを担当。 2005 年10 月よりメリルリンチ日本証券に入社し同セクターを担当。「Institutional Investor」誌アナリストランキングでは自動車部品部門で2003年5位、2004年5位(ランナーズアップ)、2005年1位。