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「根強いドル崩落懸念と金相場への影響」

(株)日本トーマスモアコンサルティング 代表取締役 板垣哲史氏

2007年2月2日更新

ドル建て金相場は99年から01年にかけて250ドル台の歴史的安値まで下げたものの、02年から長期上昇傾向に移行して06年5月には高値723ドルまで高騰した。その後、現在までの調整局面においても600ドル台を維持して容易に下がらないのは、将来的なドル崩落懸念が背後に横たわっているからだと推測できる。

米国経済は00年初頭にITバブルが崩壊した後、01年にリセッションに陥ったが、金相場と同様に02年から景気回復局面に移行して今日に至っている。アフガニスタンやイラクへの武力介入による軍需の創出や大規模減税政策の実施に加え、日米の金融当局が超緩和的な金融政策を推進したことによって住宅バブルが膨れ上がり、個人消費が底堅く伸びたことが好景気の根底にあった。

しかしながら、一連の政策によって経常赤字は05年には8049億ドルに増大し、06年に入ってからは所得収支が赤字に転じたこともあり、これまでを上回るペースで赤字が膨れ上がっている。財政赤字と合わせ「双子の赤字」問題がさらに深刻化していることから、潜在的にドル暴落の危機を内包している。足元では住宅セクターが落ち込んでいることで景気が減速しているが、長期金利が10年物国債利回りで4%台と低水準で推移しているためFRBが利下げに動く可能性があり、米国経済の景気減速は当面、ソフトランディングにとどまりそうだ。

ただし、長期金利が上昇しないのは、端的には原油価格が高騰していたにもかかわらず、世界的に物価が安定しているからだ。またアジア諸国の高貯蓄体質やオイルマネーの米金融市場への資金還流等の要因も指摘されている。物価安定は多国籍企業がグローバル規模で生産体制を構築し、中国をはじめ途上国での人件費の安価な労働力を生産システムに組み込んだことによるものだ。ただ気になるのは、中国だけでなく米国も含めて世界的に賃金が上昇する懸念が出ている点である。企業が賃金上昇によるコスト増加分を吸収できずに製品価格に上乗せする動きになると、インフレ懸念が高まってくるだろう。

米国経済は景気の減速がソフトランディングにとどまり、今年後半には再び拡大に向かうと予想されるため、来年にはインフレ懸念が次第に広がってくると考えられる。そうなると長期金利が目立って上昇してくることになり、いよいよ住宅バブルが本格的に崩壊し、米金融市場から対米債権国に資金引き揚げが加速してドル危機に陥るリスクが高まる。これまで主に対ユーロでドル安が進んでいたが、これからは中国・人民元の切り上げもあり、その対象が日本円に代わっていくとのシナリオを描くこともできる。

金相場は、これまでユーロ高と伴に上がっていたが、欧州中央銀行(ECB)の追加利上げが一巡すると一連の支援要因が剥がれることになる。さらに米国経済が今年半ば頃に底入れし、後半以降の再拡大局面でFRBが再利上げに動いてくればドル高と伴に圧迫要因となりそうだ。とはいえ、将来的なドル危機到来への不安から金を物色する動きには根強いものがあるため、金相場自体はそれほど大きく下がることも考えにくい。金価格が再び本格的に上昇するのは、08年以降のドル危機到来の動きを先取りして今秋以降になると予想している。


板垣哲史氏
板垣哲史(いたがき てつふみ)

(株)日本トーマスモアコンサルティング(国際経営人事コンサルタント会社)代表。慶應義塾大学法学部卒業 同大学大学院卒業。外資系金融機関の国際金融部門において20年間以上にわたり国際金融市場の最先端で活躍した。その経験の中から、金融機関の専門職を対象として投資心理学を応用した収益力判定テストを開発し、自己目標明確化の為のカウンセリング、転職紹介で数々の実績を積み上げてきている。また為替動向分析を中心とした国際金融情報(グローバル・レビュー・レポート)を定期に発行し、最先端のベンチャー企業育成のコンサルタントとしても活躍中。著作に『決定版 儲かる米ドル預金』(マネジメント社)、『眠ったお金を揺り起こせ』(ブロンズ新社)、『投資に勝つ最強の「心理」法則』(オーエス出版)、『金と考える分散投資』(文芸社ビジュアルアート)などがある。