チューリッヒの小鬼たちがうごめくスイス銀行で日本人としてただ一人、自らリスクを背負って相場を張る貴金属ディーラーを12年間続けた豊島逸夫氏。勝った負けたの日々にピリオドを打った後は、180度方向を変えて非営利法人ワールド ゴールド カウンシル(WGC)に転身。その貴重な経験を活かし、金の第一人者として金融・経済関連の新聞や雑誌、Webサイトで金に関する良質な情報を発信し続けている。
講演活動やテレビのニュース番組への出演を通じて日本国内への金投資の普及・啓蒙に熱い心で尽力されている豊島氏が金の投資商品としての魅力を、金に寄せる自らの思いと共に小気味良いテンポで語っていただいた。
Profile:豊島逸夫(いつお としま)
1948年東京生まれ。1972年一橋大学経済学部卒業後、三菱銀行(現東京三菱UFJ銀行)入行。1975年よりスイス銀行の「外国為替貴金属部」で金、プラチナのディーリングを12年間行う。ディーラー引退後、非営利法人ワールド ゴールド カウンシル(略称:WGC)に転籍。1992年日本代表に就任。1999年よりWGC日韓地域代表。
日経マネーDIGITAL「金価格を読むコラム」にニュース読解を連載中。
金への投資が日本では難しい事情:<第2回>
ひとつは日本では金を営業項目に掲げている会社が少ないため、どこで金の情報を得ればよいか普通の主婦やサラリーマンにはわからないということ。もうひとつは営業姿勢が強引なことです。これが今日に至るまで金投資を躊躇する現状が日本で続いている理由です。
新聞報道でも、株の話は「NY株へ投資資金流入」と載りますが、金では「投機資金流入」となる。日本は投機マネー=悪というイメージが強いのですが、私がシカゴで出会ったスペキュレーターは自分の職業に誇りを持っていました。先物市場はシカゴのお百姓さんが種を蒔く3月に9月に売る価格を決めることができたらというニーズで発生しました。売るだけのお百姓さんには買い向かう人が必要で、資産家が買いを引き受けたことからスペキュレーター=投機家という職業が生まれたのです。投機家不在では市場は成り立たない。これは株でもドルでも金でも同じことです。
金投資に対する不安感を払拭するための魔法の杖はありません。地味に同じメッセージを送っていくしかないのです。たとえば金の希少価値を伝えるとき引き合いに出される「有史以来発掘された金はプール3杯分です」ということを私も含めて業界が飽きずに発信し続ける必要があると思っています。
金市場への流入マネーの規模は以前と比べると2桁は大きくなっています。それは今、インデックスやETFが運河の役割を果たして、推定で5,000兆円から7,000兆円と言われる株や債券のメーンストリームのお金が流れ込んでいるからなのです。東京工業品取引所の会員に外資系金融機関が増えたのは決して偶然ではありません。彼らが金も必要だと判断して金市場へも積極的に参加していこうとコモディティを拡充していることの現れなのです。
機関投資家のマネーが金市場に入る理由には3つのベクトルがあります。ひとつは原油高でインフレ懸念によりインフレに強い金への資金流入が起こっていること。2番目がドルに対する不安です。金はひとつの通貨ですからドルを睨みながら売買されています。ドルの信用がイラク戦争やサブプライムローンの問題等で大きく傷つき、世界中の投資家がドルに不安を抱いているという流れ。基軸通貨としてのドルの凋落。これが2つ目です。3つ目はサブプライムローン問題です。老舗の投資銀行が発行した投資商品でAAAのブランドもあるからと買った福袋の中身がガラクタだったという経験をした世界中の投資家たちが、印刷された価値は儚くて脆いから実物の資産もポートフォリオに入れようとして質への逃避を考え始めています。信用不安が高まると安全性を求める資金のひとつは米国債、それから金と流れます。
3つのベクトルは、一過性のものではなく持続性を持つ原油高、インフレと、長期的なドル凋落のトレンドが5年くらい続くのは間違いないでしょう。サブプライムローン問題は一巡する可能性があるため、金価格が短期的に下がっています。これは、サブプライムローン問題の最悪期は脱したとのマーケットのムードからです。利下げに歯止めがかかったことも理由のひとつでしょう。金は金利を生みませんから利上げという言葉が天敵となります。
ワールドゴールドカウンシルにてインタビュー
編集:鈴木 佐知子
取材後記
まさかその時ご自身はこのような仕事をするとは思ってもいなかったとのことですが、大学の卒論のテーマは「ドルと金」だったそうです。今になって思うと縁あって金と紅い糸で結ばれていたのではないかと思うと話されたことがとても印象に残りました。
「投機」という言葉が金投資への枕詞のように新聞紙上で使われることが苦々しいとの発言に、金への投資を紋切り型の言葉で語ってほしくないと思う豊島氏の金への愛情を強く感じました。



