口髭がトレードマーク。齋藤精一郎さんは、テレビ東京系のWBS(ワールド・ビジネス・サテライト)のレギュラーコメンテーター、千葉商科大学大学院の会計ファイナンス研究科の教授、NTTデータ経営研究所取締役の所長をそれぞれ務め、エコノミストとして、社会経済学者として毎日多忙に飛び回っている。
はたして、デフレ脱却は本物なのか、今、まさに押し寄せてきているグローバリゼーション3.0の大きな波。デフレが終焉したあとの時代をどのように乗り越えていけばよいかを、若い世代との接点を持つ齋藤教授ならではの柔らかな視点を交えながら、お話しいただいた。
Profile:齋藤 精一郎(さいとう せいいちろう)
1940年東京生まれ。1963年3月東京大学経済学部卒後、同年4月から1971年8月まで日本銀行に勤務。1972年4月から2005年3月までの立教大学社会学部助教授・教授を経て、2005年4月から千葉商科大学大学院教授を務める。1991年4月からNTTデータ経営研究所取締役所長を兼任。テレビ東京系のWBS(ワールド・ビジネス・サテライト)などのコメンテーターを務める。主著書は近著の「大転換:日本経済2007年〜2015年」(PHP研究所)のほか「新成長経済の構想」、「10年デフレ」、「ゼミナール現代金融入門」(以上日本経済新聞社)など。訳書にガルブレイス著「不確実性の時代」(講談社文庫)などがある。
“デフレ脱却元年”へ:<第1回>
デフレが始まったのは、1991年春からで、特に深刻化したのは、97年4月の橋本内閣の消費税5%の引き上げです。消費者がガクッと消費を落とし、1998年には増加基調にあります消費者物価の前年比が恒常的にマイナスになってしまった。
それから、ずーっと下がりっぱなしだった消費者物価が、やっと2006年ぐらいからゼロになって、マイナスから浮上してきました。1992年から下がっている国内企業物価(卸売物価)も、ここ3年ぐらいは石油の価格が上がったりとか、原材料の価格が上がったりしましたから、いろいろな指標で見ると、明らかにデフレは終わっていて、2007年の今はもう、デフレから脱却しているといえます。
それなのに、「まだデフレは終わっていない」との声がなぜ聞こえるのか。それは、政府が、「二刀流」を使っているからです。たとえば、株価が大きく下がると、「景気動向調査では、57カ月のいざなぎ景気を抜いて、戦後最長の景気拡大が続いているから、大丈夫」とアナウンスします。ところが、日銀が利上げしようとすると、「まだデフレは終わっていない」という。企業や国民にしてみると、「デフレ終わっているのかな、まだなのかな」と思ってしまうわけです。
企業は金利のことを考えると、不安になってきます。できるだけ金利は低いほうがいい。だけど、ゼロ金利に慣れ過ぎているから、また利上げがあるのではないかと、デフレが続いてほしくないけれど、デフレであってほしいと言う気持ちが潜在的にあります。デフレから脱却したら、リストラでコストは下がって、収益が上がる構造になってきているのだから、設備投資をしたい気持ちも強いのですが、5年間のリストラ旋風の後遺症で、経営者のマインドが萎縮していて、思い切って給料を払ったり、ボーナス出す自信がありません。まさに、企業は「羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹く」という状態に陥っているのです。
消費者も給料が上がらないから、ハレの日、たとえば、お正月や記念日にはパッとお金を使うけれど、普段は安い洋服でよいとか、ビールも発泡酒で恥ずかしくないやとか、ランチも1000円以下で済ませようという堅実的な消費が定着してしまっています。
だから、今、デフレを脱却したとはいえ、消費全体の動きが鈍い。一種の凪(なぎ)状態です。風が吹かないのです。だから、どちらへ行ったらいいか見えてこない。しかし、景気は水面上に浮いていて、下に沈むことはありません。もう少し元気が出ると、発進態勢はできているのですから動き出します。でも、周りを見るとなんかもやもやしているのでなかなか抜け出して行けない。ですから、今はデフレが終わって次に行くまでの、ちょっと長いですが、過渡期にいるということでしょう。
少し動きが出て来るのは、参議院の後です。選挙後には政府も大胆にいろいろやってくるでしょう。
順風が吹くのは、来年の2008年以降ですが、あまり、心配することはありません。アメリカ、中国の景気など先の不安はまだありますが、日本経済全体はトンネルを抜けているのですから。
齋藤研究室にてインタビュー
編集:鈴木 佐知子
取材後記
インタビューに伺った私たちを事務所に迎え入れてくださったのは、TV画面を通じて拝見していたのと同じ温厚で優しい笑顔でした。どうして、「デフレ脱却」と、世の中はすっきり思わないのだろうという問いへの明快な回答に、そういうことだったのかと納得。齋藤教授のお話をお聞きして、経済のからくりをとてもわかりやすく理解することができました。



