日本のお家芸である自転車競技・競輪のプロ選手として活躍する長塚智広氏。2004年に出場したアテネリンピックでは、チームスプリント競技において銀メダルを獲得。今また北京オリンピックでのメダル獲得に向けて新たなる挑戦をスタートさせている。一方、中学時代に興味を持った投資も競技生活と同時進行で独自の理論での堅実な運用を続けているという。
時速70キロのスピードで心拍数は約200にもなるという自転車競技の極限状態を超えたあとに、長塚選手が掴んだものは何か。競輪も投資も「本業」だと語る中、競輪は投資活動にどのような影響をもたらしているのか。1970年代生まれのみずみずしい時代感覚で競輪の知られざる魅力や虜になった投資について奔放にお話しいただいた。
Profile:長塚智広(Tomohiro Nagatsuka)
1978年茨城県生まれ。1993年4月に茨城県立取手第一高等学校入学後、自転車部に入部。1996年3月卒業後、同4月に日本競輪学校に入学。1998年3月同校卒業後、同年8月にプロの競輪選手としてデビュー。初出走は取手競輪場。2000年にシドニーオリンピック出場(チームスプリント競技5位入賞)。2003年にシドニーワールドカップ出場。(同競技金メダル)。2004年にアテネオリンピック出場(同競技銀メダル)。2007年現在、日本競輪選手会茨城県支部所属。著書に「長塚智広の株の筋トレ―アテネ五輪・銀メダリスト 」(扶桑社)がある。
3.リスクとの向き合い方
生きている限りすべてがリスクです。投資に対するリスクの取り方は人それぞれだと思います。自分が投資に使える資金の範囲内でパンクしても立ち直れるところを判断して、どこまでレバレッジをかけられるかということに尽きます。私はそんなにはレバレッジをかけていないのでパンクはそれほどしていませんが、ここまでと基準を決めるのが難しい。先物取引で儲けている人は大勢いますが、最終的に損をすれば失敗といわれてしまいます。勝っているところで徐々に資金を増やして取引を止められるかですが、そのタイミングも人によります。人間は保険が欲しい生き物ですから、投資は失敗してもぎりぎりでも立ち直れる範囲でしなくてはいけないと思います。
競輪選手としての一番大きなリスクは怪我です。怪我で競技生活を1年、2年と棒に振る場合もありますし、たまに亡くなられる方もいます。しかし、リスクと引き換えに賞金をいただけるし、怪我したときにこそ見えるものがあるので、怪我を最大のリスクとしてへこむかへこまないかは考え方ひとつです。私は怪我してもいいと思っていますし、それで死んだら死んだでしょうがない。競輪の場合、そういうリスクがあるのはしかたのないことなのです。
精神的な強さを保つ原動力になっていることはいろいろな人に会うことです。新しい人に会って、その人の考え方や行動の仕方を肌で感じることが一番大事だと考えています。一人で家に引きこもっていると、自分だけの考え方に凝り固まってしまいます。生身の人間とコミュニケーションすることで、何にも動揺しない強さが身についたと思います。
もしも北京オリンピックで金メダルが獲れなかったとしても、たぶんへこみません。一瞬へこみますが、なるべく短期間で気持ちを戻します。周りで応援して頂く方々に申し訳無いと言う気持ちがありますが、へこんでいるだけであれば、その先にある色々なチャンスが見えなくなります。失敗した分、応援して頂いた方々への気持ちを、逆に何かの形でお返しする事の方が大事と考えます。
それはまたロンドンオリンピックを目指す形になるかもしれませんが。精神的には堪えないタイプなので、最善尽くして結果はなんでもいいというくらいの気持ちです。私がレースに負けてへこんだのは21歳くらいまでです。22歳の時にシドニーオリンピックで負けて5位でしたが、またアテネがあると思いました。失敗したことを悔やんでもしょうがないし、同じ経験を繰り返さないようにすればいいのでへこまないのです。
投資に対してもへこみません。失敗してよい範囲でもう1回やり直せればいいだけですから。でも投資で失敗すると資金がゼロになることもあります。減らす金額をどこまで少なくできるか、へこんだら早めに逃げることが投資を行う上で一番大事なところです。
「投資が本業で、競輪は趣味でしょう。」と言われたりしますが、両方本業なのです。会社も経営していますが、こちらも本業。全部本業です。だからすべてに時間を分散していく。1つのことは人間できるものです。2つのことはなかなかできません。3つはかなり厳しい。私は厳しいことをすべて8割ぐらいの力の入れ加減でこなしていきたいと思っています。
「TOCOMスクエア」にてインタビュー
編集:鈴木 佐知子
取材後記
競輪のCMを深夜のテレビで見たときもそうでしたが、長塚選手のリスクに対するお話を伺いながらそれぞれの人生にはそれぞれのリスクがあることを考えさせられました。CMでは実際の競輪同様9名がそれぞれの人生を背負って走るのですが、転職したタクシー運転手に扮した男性のセリフが心に突き刺さります。「第二の人生ってなんだよ、俺は一度も終わっていないよ」綺麗事だけではない人生レース。長塚選手が死を覚悟して走るというレースを目の当たりにしたら自分は今何と戦っているのか見えてくるかも知れない。競輪を観に行こう…。そんな気分になりました。



