約30年間に及ぶ銀行勤務を経て、現在は信州大学経済学部教授を務めている真壁昭夫氏。今では金融市場関係者にはお馴染みとなった「行動ファイナンス理論」に早くから着目し、この分野の研究では先駆者的役割を担いながら、芥川賞作家の村上龍氏が編集長を務めるメールマガジン「JMM」に金融経済の専門家として定期的にコメントを寄稿している。
クローズアップされている格差問題やサブプライムローン問題は今後どのような展開を見せるのか。また、投資家心理がなぜ金融市場を動かすのかということについて、金融機関でのディーリング経験で得た視点と大学教授としての視線の両面から、わかりやすく分析していただいた。
Profile:真壁昭夫(あきお まかべ)
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行に入行。1983年、ロンドン大学経営学部大学院卒業。1985年、メリル・リンチ社ニューヨーク本社へ出向。1986年、DKB INTERNATIONALへ出向、トレーディング部長を務める。1998年、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。1999年、信州大学経済学部大学院講師兼任、慶応大学理工学部講師兼任、第一勧銀総合研究所主席研究員。2002年、みずほ総合研究所調査本部主席研究員。2002年4月から立教大学経済学部講師兼任、2003年4月から信州大学大学院イノベーション・マネジメント・センター特任教授兼任、2003年10月みずほコーポレート銀行業務監査部参事役を経て、2007年現在、信州大学経済学部教授。 主著書は近著の「下流にならない生き方」(講談社+α新書)のほか、「ファイナンス理論の新展開」(共著、日本評論社)、「ゼロから分かる個人投資」「最強のファイナンス理論―心理学が解くマーケットの謎」(講談社)、「リスクマネーチェンジ」(共著、東洋経済新報社)、「資本コストの理論と実務」(共訳、東洋経済新報社)、「これからの年金・退職金がわかる本」「これ以上やさしく書けない金融のすべて」(PHP研究所)、「行動ファイナンス」(監訳、ダイヤモンド社)などがある。
投資心理学から見るサブプライムローン問題とは:<第2回>
サブプライムローン問題については、多くの専門家が重大な問題ではないと言っています。バーナンキFRB議長は、最大損失が1000億ドルで、アメリカ経済としては償却できない額ではないとの証言を行っています。日本が抱えた100兆円の不良債権に比べれば大した金額ではありません。問題は金額ではないのです。サブプライムローンを借りている低所得者や信用力の低い人は、他にもローンを借りているケースは多いと思います。その意味では、この問題を過小評価することは適切ではないかもしれません。今後の展開には、それなりの注意が必要だと思います。
サブプライム問題が表面化する前、金融市場ではリスクに見合った価格よりも高い金融商品が多く出回っていると言われていました。サブプライムローンを証券化したRMBS(貸付債権担保住宅金融公庫債券)もそのひとつです。金融機関は、ヘッジファンドなどを通じてこういった金融商品にも投資していました。米国の住宅価格が下がり始めるとサブプライムローン問題が発生し、それはRMBSへも波及します。それに関連して、イギリスでは銀行預金の取り付け騒ぎが起こりました。そういう状況が起きていることを考えると、確かにサブプライムローン問題を「大したことはない」と簡単に済ませることはできないかもしれません。私の経験では、不良債権はとても怖いという印象が残っています。「不良債権が100億ある」と言っても、その金額は増える可能性があります。景気が悪くなって企業業績が悪化し、お金を返したくても返せない人が出ると正常債権は不良債権となります。最近の米国経済を見ると、景気自体は底堅いですから、すぐに大きな問題になるとは考えにくいのですが、問題をすべて解決するまでには少し時間がかかると思います。
最近まで世界的にお金が潤沢に供給されていたこともあり、投資家はリスクに対してとても勇敢でした。人間は過去の成功体験に固執することが多いため、一旦、「大丈夫」だと思うと、どうしても安心感に慣れてしまいます。ただ、過去の相場を振り返ると、本当に設けられる良い時期は一般的には長くて4年程度だと思います。それ以上は続きません。金融の世界も常識で考えておかしいということは長続きしません。住宅価格が上がり続けることを前提に組み立てられたサブプライムローンには、ついに上がり過ぎの調整が起こりました。一度調整が本格化すると、今までの安心感が大きく振れて、今度は不安感になってしまいます。何をやってもダメかもしれないという気分になってしまうものです。そうした状況に陥っている時期を抜け出すには、それなりの時間が掛かります。
東京・飯田橋「ホテルメトロポリタン・エドモント」にてインタビュー
編集:鈴木 佐知子
取材後記
サブプライムローン問題は、90年にバブルがはじけたあと、日本に起きた住専問題と同じような展開になる危険性を含んでいると真壁教授は分析しているようです。あの時に注入した公的資金は8,000億円弱です。そのあと金融機関に入れた資金は、10兆円単位にまで拡大しました。「山火事は最初に消し止めれば大事にはなりませんが、燃え広がった場合には森全体が焼けてしまうということもある」ともおっしゃっていました。お聞きしていて、サブプライムローン問題の影響をどのように見極めるか。自分の投資スタイルを考える上でとても勉強になるテーマだと感じました。



